NOVEL

蜘蛛の糸・地獄変 / 芥川龍之介

地獄変短編集。8話収録。
日本文壇史に絶対的な名を残す偉大な作家。
この短編集では「地獄変」が圧倒的に凄い。
殿様から屏風に地獄変を描くように言われた天才絵師が、
”見ていない物は描けない”という理由から、
最愛の愛娘を業火にかけるはめになり、
娘の焼け死ぬ姿を絵描き、その後、自らも命を絶つ、という壮絶な話。
ここでの芥川の筆力は凄まじい。これだけ圧倒的な迫力を持った、
鬼気迫る美しい文章を書く人を他に知りません。

羅生門 / 芥川龍之介

羅生門芥川の「王朝物」と呼ばれる平安時代を舞台にした短編集。
今昔物語を中心に、日本の古い説話から題材を得ています。
この中だと「羅生門」「鼻」「芋粥」などが有名だけど、
僕は「邪宗門」に惹かれました。
貴族の若殿VS邪教の法師、という激突に息を飲む。
ただ、残念なのは、この作品は未完だということ。
いよいよこれから対決!って所で終わってしまう。
芥川自身、広がりすぎた展開に収集がつかなくなったらしい。

戯作三昧・一塊の土 / 芥川龍之介

戯作三昧13話収録の短編集。
「或日の大石内蔵之助」では大石内蔵之助を、
「戯作三昧」では滝沢馬琴を、「枯野抄」では松尾芭蕉を、
といった、実在の人物を変わった視点で描いているのがユニーク。
僕は「一塊の土」や「お富の貞操」が気に入ったけど、
一番好きなのは「雛」。
貧くなったゆえに豪華なお雛様を売ることになった家族。
女の子は最後にもう一度お雛様を見たいと言うが、
もう売り物だからと父親は箱から出してくれない。
泣く泣くあきらめた女の子が最後の晩、偶然目を覚ました時に見た光景は…
ラストシーンは鮮やかに目に浮かぶよう。

壁 / 安部公房

壁芥川賞受賞作。
ある日突然名前を無くしてしまった男にまつわる話。
この人ホントにぶっ飛んでる。
この発想、想像力は、まさに作家だよなぁ。
小説ならではの面白味が詰まってる。三部に分かれてるんだけど、
個人的には本編よりも、三部の短編4作品がインパクト大。
貧しい画家が「魔法のチョーク」を手に入れる。
ボロアパートの自室の壁に絵を描くと、それが実体として現れる。
食べ物を描き空腹を満たす主人公。主人公は壁に女を描くことを思いつくが…
って話も幻想的かつスリリングでおもしろい。
安部公房は完全にお気に入りの作家になりました。

カンガルー・ノート / 安部公房

カンガルー・ノートこの人の常人離れした発想力、想像力は、
他の作品でも存分に堪能したけど、
この「カンガルー・ノート」もクレイジー。最高。
ある日突然、脛(すね)から「かいわれ大根」が生えてくる。
すね毛じゃなくて、かいわれ大根がびっしり。
この時点でそうとうクレイジー。
その後はもうめくるめく狂気の世界へどっぷり。

箱男 / 安部公房

箱男ダンボール箱を頭からかぶり、街を徘徊し、
すべての生活をその中で行う男の話。複雑な話だ。難しすぎた。
最初は箱男自身が書いた手記、っていう一人称で
話が進むんだけど、話が進むにつれて、いったい誰が箱男なのか、
誰がこの手記を書いているのか、がわからなくなる。
すんごいディープ。頭ぐちゃぐちゃになる。
でも、この安部公房ワールドは大好きだ。

砂の女 / 安部公房

砂の女昆虫採集に出かけた男が、とある部落の深い砂の穴の底にある、
女の住む家に閉じ込められる。
あらゆる手段で穴からの脱出を試みる男。
砂から家を守るため、男を引き止める女。脱出を妨害する村の人々。
そして、砂自体がもつ恐るべき力…

そうとうおもしろい。20ヶ国以上で翻訳され、
安部公房の名を世界に知らしめた名作です。
複雑な「箱男」に対し、この作品は実にシンプル。
脱出、というサスペンス的な要素もあいまって、ページもどんどん進む。
僕が強く感じたのは、この作家の天才的な比喩表現。
夜、慎重に穴の底から、自作のロープで脱出を試みる時に、
「蜘蛛の糸で星をひきよせるような思いで」とか、
的確で見事な比喩表現がたくさん出てきます。

ぼっけえ、きょうてえ / 岩井志麻子

ぼっけえ、きょうてえ明治時代、貧しさのため身売りされた遊女が、
客に語る身の上話の内容とは…

日本ホラー小説大賞受賞のタイトル作他、4話収録の短編集。
「ぼっけえ、きょうてえ」
まずこのタイトルがインパクト抜群。
岡山地方の方言で「すごく、恐い」の意味だそう。
岩井志麻子自身が岡山の出身で、他の話もすべて岡山が舞台。
タイトル作では全編にわたり方言が使われていて、
ひたひたと恐い雰囲気をさらに独特なものにしてる。
グロな描写もけっこう多いけど、恐いというより悲しい感じがした。
ちなみに文庫版の解説は京極夏彦が書いてます。

孤島の鬼 / 江戸川乱歩

孤島の鬼日本のミステリを語る上で、かかすことのできない存在。
この作品は乱歩ならではの怪奇性、猟奇性を、
これでもか!とたっぷり含んだ代表的な長編。
密室での殺人の謎、大衆の目前での殺人の謎、
といった前半部もかなりおもしろいけど、
なんといっても、孤島に渡ってからの後半部が最高。
エログロで妖しい乱歩ワールド炸裂。
洞窟内での息がつまるような緊迫した描写も見事。
娯楽作品としての充実度は文句なし。

江戸川乱歩傑作選 / 江戸川乱歩

江戸川乱歩傑作選短編の多い乱歩だけど、文字どおりの傑作を集めた短編集。
「芋虫」なんて、かなり魅力的な悪趣味っぷり。
グロって言葉を使うのに気が引けてしまう放送禁止ワールド。
この時代の小説ならでは。かなり残酷で哀しい話。
「人間椅子」も恐いです。
普段使ってる椅子の中に、実は人間が入っていて、
人間観察をしていたら、なんて恐すぎ。
でもいまいちオチは好きじゃないけど。
他にも乱歩の処女作である「二銭銅貨」等を収録。

人でなしの恋 / 江戸川乱歩

人でなしの恋表題作を含む短編集。
初期の、乱歩の中ではマイナーな部類に入る話が多いです。
乱歩を初めて読む、という人にはおすすめしない。
そんな中で「人でなしの恋」はわりと有名だし、
読後、「人でなしの恋」というタイトルの深さにうなった。
門野は、見合い結婚した妻を徐々に愛せなくなる。愛そうとしても愛せない。
そして、夜な夜な寝床を抜け出しては蔵へ行っているようだ。
そこには門野の隠された秘密があった…
生々しく幻想的な哀しい話。

算盤が恋を語る話 / 江戸川乱歩

算盤が恋を語る話表題作を含む短編集。
これも初期の作品が集められているんだけど、
この頃の乱歩は、乱歩の特徴でもある「猟奇性」
「怪奇性」「幻想性」、といった要素が薄く、
謎解きだったり、暗号解読だったり、
推理ものだったりと、割と正統派なタイプの話が多い。
それゆえに乱歩の作品の中ではいまいち人気がないそう。
あとがきで乱歩自身もそのことを気にしているようでした。
その反動でこの後、強烈な乱歩ワールドが確立されたのかも。
この短編集も、乱歩初心者にはおすすめしないけど、
ある程度乱歩を知ってる人は読んでみるといいかも。

屋根裏の散歩者 / 江戸川乱歩

屋根裏の散歩者4話収録の短編集。
「押絵と旅する男」が大好きだ。
話の中に出てくる凌雲閣(浅草十二階)
っていう建物は実際にあったらしい。
でも、関東大震災で倒壊してしまったそうです。
登ってみたかったなぁ。
主人公の兄が見た明治の浅草の町並みはどんなだったのだろう。
恋をした絵の中の娘と生きるため、自ら絵の中に入った兄の幸福と苦痛。
全編にわたる幻想的な雰囲気に引き込まれる。